ハートふるメッセージ

荒川区西日暮里の神経科・心療内科・精神療法・カウンセリング・薬物療法の倉岡クリニックがお送りする、心に響くメッセージブログです
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146.七難八苦
 

信長や秀吉の時代、出雲地方を治めていた戦国大名尼子氏の家臣に、山中幸盛(鹿之助)という武将がいた。幾多の合戦で勇猛果敢に戦い、「太閤記」にはその活躍ぶりが記載されている。鹿之助は幼少時から家臣として尼子氏に仕えるが、その忠誠心には比類なきものがあった。

 

当時、尼子氏とともに中国地方の覇権を争っていたのは毛利氏であり、たび重なる合戦の結果、毛利元就の軍勢は尼子義久の居城である月山富田城を攻め落とし、ここに尼子氏は毛利氏の軍門に下ることになる。義久は幽閉の身となって、戦国大名としての尼子家は一旦途絶えてしまう。

 

しかし忠誠心に厚い鹿之助は、尼子家再興のために獅子奮迅の働きをして、一時的に再興を果たすが、長くは続かず戦いに敗れてしまう。二度目も失敗に終わり、三度目の再興を果たすための合戦の中、毛利軍に攻められ敗退して捕えられる。そして毛利輝元のもとに護送される途中、殺害されてしまうのである。鹿之助は武将としての価値を高く評価されていたため、このまま生かしておいたら何をやらかすか分からないという恐れが毛利側にあったのだろう。

 

子供の頃から尼子氏に仕えていた鹿之助は、主君に忠誠を誓うというより、尼子氏という家に対する忠誠心が強かったようである。三度目の再興を果たすときに、担いだ尼子勝久は毛利軍に包囲され自害したが、鹿之助は自分が尼子家を再興するから安心して自害してくれと言ったという。

 

山中鹿之助、本名は幸盛(ゆきもり)という。彼の人となりは一考に値するものがある。有名な彼の言葉で、「願わくは、我に七難八苦を与えたまえ」と三日月に祈ったと伝えられているが、満月ではなく三日月に祈った理由は、おそらく山中家に代々伝わる甲冑の兜の前立てが三日月であったことによるのではないかとおもわれる。

 

それはともかく、人が神仏に何かを願うときは、多くの場合自分に利益をもたらすことや苦痛から解放されることを願うものである。家内安全、商売繁盛などと願うのが普通であろう。しかし鹿之助は何故自分に苦痛を与えることを願ったのだろうか。

 

鹿之助が生きた時代背景もあるが、戦国時代は乱世である。力のあるものだけが生き残り、弱いものは否応なく切り捨てられ、それがあたりまえの厳しい時代であった。だから生き残って自分の思いを実現させるためには、才覚、英知、腕力など様々な力が必要であった。

 

それらの力を手に入れるためには、尋常な手段や、やわな気持ちでは到底身につけることが出来ない。質実剛健は武士の基本であるが、それだけでは他の武士と同じである。それ以上の力が必要なのである。

 

それではどうしたらいいのか。どのような戦も思うように展開しないことがある。むしろそのほうが多いのではないか。正攻法だけでなく奇襲攻撃やゲリラ戦も必要である。だから、どんな困難にも耐えうる能力が必要であり、それを得るためにはとてもできそうにないような困難な状況を克服しなければならない。

 

鹿之助はどのような困難も乗り越え、耐えうる力を身につけるために、あえて困難な状況に身を置いて、自分の精神と肉体を鍛えようとしたのである。それが七難八苦を与えたまえと祈った所以なのである。

 

鹿之助は一度目の再興に失敗して、毛利軍に囚われの身となるが、腹痛を訴え何度も厠へ行き、頃合を見計らい、監視の目を盗んで糞尿壺に潜み、糞尿まみれになりながら汲み取り口から脱走したという。何としても生き延びて、尼子氏再興を成就させたいという鹿之助の、凄まじい執念のようなものを感じさせるエピソードである。

 

若い人には少し説明が必要と思うが、昔は今と違って水洗トイレはない。排便、排尿したものはそのまま糞尿を貯める大きな壺にためておく。いっぱいになったら汲み取り口から柄杓で汲み出して、畑の肥溜めに貯めておく。そしてある程度発酵したら畑に撒いて肥料とするのである。

 

人が成長して能力を高めるためには、すでに出来てしまっていることをしても能力は高まらない。今までに出来なかったことを成し遂げてはじめて、いままで持っていなかった新しい能力が身につくのである。

 

それは初めてすることなので対処法が分からない。既存のノウハウが無いのであるから、思考錯誤の中で失敗を繰り返しながら、新しいノウハウを身につけていくしかないのである。そこで命を落とすこともあるだろう。しかしそれを乗り越えれば素晴らしい能力を手にすることが出来るのである。

 

『憂きことの なおこの上に積もれかし 限りある身の力試さん』

 

これは、もっとも鹿之助らしさを表現している力強い句である。いまも辛いことや苦しいことはいっぱい抱えているが、さらにもっと増やしてくれ、生きている限りどこまでやれるか、自分の力の限界を試したいのだと、鹿之助の雄叫びが聞こえてくるようである。

ハートふるメッセージ | 18:21 | - | -

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